カシミアのひみつ

高級な素材として知られるカシミア。

 

暖かく、軽く、肌触りが良い。その上光沢まである。

約1000年前の古来より、衣類の素材として使われてきました。

 

高級ということは、世に出回る数が少なく、希少性が高いということ。

デリケートな素材なので、その取り扱い・メンテナンスの仕方は気になるトコロ。

 

ここでは、私たちのカシミアのクリーニング法と、そもそもカシミアってなに?というところから解説してゆきます。

 

 

そもそも“カシミア”ってなに?

 

カシミアは、私たちが「獣毛」と呼ぶジャンルに属しています。

「獣毛」と呼ぶくらいなので、“カシミア山羊”というヤギの毛です。

 

カシミア山羊は、カシミール地方(ヒマラヤ山脈西部の高山地帯)に生息しているヤギで、服の素材で皆さんが想像される“カシミア”はカシミア山羊の「うぶ毛」です。

 

この「うぶ毛」、春の毛の生え替わりのときに抜けた毛から手作業で「くしで梳(す)く」ことで集めます。非常に手間がかかるため、1頭から約150~200gしか取れず、セーター1枚を作るのに4〜5頭分が必要になります。

 

またこの「カシミア山羊」は、“カシミール地方の寒冷で、土地が痩せた高山地帯”という過酷な条件の下で飼育したときにしか上質な「うぶ」毛にならず、世界的にも生産地域がユーラシア大陸中央の高山地帯に限られています。

 

そのため、世界的な生産量も年間約6000~7000トンと非常に少なく、その希少価値が高いのもうなずけます。(ちなみに、ウールの世界生産量は約120万トン)

 

希少価値が高いために、古くからウールを混ぜるなどの「かさ増し」「ニセモノ偽装」が後を絶ちません。

一説には「流通量は生産量の4倍もある」ともされています。

 

これは、アパレル業者が、生産国から生地を輸入する際に生地を鑑定しようとした場合、鑑定に出すと熟練の検査技師が顕微鏡で、繊維の1本1本を目で見て繊維の形を判断しなければならず、また見た目もよく似ているため判別が難しいケースが多いためです。また、手間がかかるので検査料も高額になります。

 

「混ぜても」「偽装しても」バレない・確認しようがない、そういった、言った者勝ちの状態のみならず、一部のアパレル業者は「高額の検査料を支払うくらいなら、安価で多く販売したほうが有利」と判断する業者も存在しています。低価格で、「カシミア」と名乗って販売しているものは、この手のものが多く流通していると考えられます。

 

しかし、2020年に日本の製品評価技術基盤機構が開発した、動物によって異なるタンパク質を使った検査法(DNA検査みたいなもの)が、世界規格に採用されました。この検査法が普及すれば、今後こういった偽装は、世界的に減ってくでしょう。

 

 

 

 

カシミアの特徴

 

カシミアの素材としての特徴としてはなんと言っても、“軽くてあたたかい”ことです。

 

その秘密は、繊維の細さにあります。

一般的なウールの1本の繊維の直径は20ミクロン前後ですが、カシミアは14ミクロン前後。

1本の繊維が細いので、糸にするときに多くの繊維が絡み、そこにより多くの空気が入るスキマができます。

そのスキマに入る空気が保温層となり、服にしたときに「軽くてあたたかい」になるのです。

 

現在でこそ化学繊維で“軽くてあたたかい”素材はありますが、天然繊維の中ではシルクにつぐ細さです。ちなみに、シルクは1本1本の繊維が獣毛に比べとても長いので、お互いが絡みにくく(なので手触りが滑らか)なっているため、保温性能に限っては、あまり高くありません。

 

 

 

カシミアのクリーニング

 

繊維も細く、デリケートな素材のクリーニングは、もちろんデリケートです。

 

私たちは、2段階のクリーニング処理を行います。

 

まず、ドライクリーニングで「大方の汚れ」・「汚れの脱脂(油分の除去)」を行います。

洗濯表示が

かで、石油系溶剤かテトラクロロエチレンで洗うかを判断します。これは、主に製造者が使用した染料や、染色堅牢度(染めの強さ)に応じて洗濯表示に表示するものなので、その指示通りに処理を行います。

 

次に、ウェットクリーニングを施します。

私たちは、浸潤法(浸け置き洗い)を採用しており、2浴(2度の浸け置き洗い)で行います。

 

第1浴

 浸潤液(浸ける水)に、界面活性剤と水溶性樹脂(フェルト化による収縮を防ぐため、素材の表面に界面重合による高分子(ハイポリマー)生成し皮膜を形成する樹脂)を必要量入れて浸潤(浸け)することで、樹脂の被膜で依頼品の繊維をコーティングし、ウェットクリーニングによる変形(縮み)を防ぐと同時に、汚れを除去します。

 

第2浴

 第1段階でのドライクリーニングで失った繊維内の油分補給と、繊維のスケール(人間で言うとキューティクル)の補修のため、浸潤液(浸ける水)にリンスとして陽イオン界面活性剤を必要量入れ浸け、手で押してある程度脱水したら、平干しをします。

 

カシミアの仕上げ

 カシミアの仕上げは、ご着用時のシワが強く付いている場合を除いて、アイロンは使いません。たっぷりの蒸気でふかしながら、手で整形(形を整える)していきます。私たちはこの手法を「手アイロン」と呼んでいます。ふかしの後「手アイロン」で整えながら、送風に切り替えて冷却・乾燥をして仕上げます。

 

ここまで、私たちが普段行っているカシミアのクリーニングを解説してきました。

より永くご依頼品を使用頂ける様に、手間は掛かりますが大半を手作業で行っています。

カシミアだけでなく高級・一般問わず、丁寧に、真摯に素材と向き合っています。

  

 

 

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